TOKYO LITTLE HOUSEの建築主は、戦前は築地で暮らし、疎開先で空襲の難を逃れた夫婦でした。勤め先の料亭の主人から資金の援助を受けて、養女に迎えた6歳の娘と3人で新しい暮らしを始めるために建てた、木造2階建ての一軒家です。
戦中には防空壕を掘ってくれた大工さんが、まだ戦後間もなく資材統制がある中で工夫を凝らしてつくってくれました。
高度経済成長やオリンピックを経て、周囲の建物は次々と背の高いビルへと建て替えられ、街が喧噪に包まれるようになっても、一家はこの家を離れることはありませんでした。
東京中が地価高騰の波に洗われると、戦後の焼け跡に建てられた木造の建物は通りに一軒残るだけとなりました。やがて家を建てた夫婦が他界した後も、今日まで三世代にわたって暮らしの場所であり続けました。
このような歴史を踏まえて、私たちは、1階部分を展示のあるカフェとして、2階部分をさまざまな旅行者を迎え入れる宿泊施設として改修を行いました。 そこには、20世紀半ばから営まれてきた生活の場が、そこに暮らしてきた家族の精神の痕跡とともに残されています。