History

TOKYO LITTLE HOUSEの建築主は、戦前は築地で暮らし、疎開先で空襲の難を逃れた夫婦でした。勤め先の料亭の主人から資金の援助を受けて、養女に迎えた6歳の娘と3人で新しい暮らしを始めるために建てた、木造2階建ての一軒家です。

戦中には防空壕を掘ってくれた大工さんが、まだ戦後間もなく資材統制がある中で工夫を凝らしてつくってくれました。

高度経済成長やオリンピックを経て、周囲の建物は次々と背の高いビルへと建て替えられ、街が喧噪に包まれるようになっても、一家はこの家を離れることはありませんでした。

東京中が地価高騰の波に洗われると、戦後の焼け跡に建てられた木造の建物は通りに一軒残るだけとなりました。やがて家を建てた夫婦が他界した後も、今日まで三世代にわたって暮らしの場所であり続けました。

このような歴史を踏まえて、私たちは、1階部分を展示のあるカフェとして、2階部分をさまざまな旅行者を迎え入れる宿泊施設として改修を行いました。 そこには、20世紀半ばから営まれてきた生活の場が、そこに暮らしてきた家族の精神の痕跡とともに残されています。

Concept

TOKYO LITTLE HOUSEという名前は、『THE LITTLE HOUSE』(邦訳『ちいさいおうち』1965年、岩波書店)という絵本に着想を得ています。都心のビルの谷間に残る一軒家の佇まいは一見するとその絵本に描かれている「LITTLE HOUSE」によく似ているからです。

『THE LITTLE HOUSE』は、『せいめいのれきし』など数多くの名作を生み出したアメリカの女性作家、バージニア・リー・バートンが1943年に出版した絵本です。物語は、丘の上の野原に小さな民家が建てられるところから始まります。周囲には次第に道路が敷かれ、宅地化が進み、やがて高層ビルや高速道路に囲まれ、いつしか家は住み手を失いますが、最後は家が再び野原の広がる郊外へと引っ越してハッピーエンドを迎えます。

そこに描かれているのは、20世紀の都市がくぐり抜けてきた変化です。地下鉄や高速道路が発達し、次々と背の高いビルが建てられ、「ちいさいおうち」は都市の中に居場所を失っていく。その歴史は20世紀の東京でも見事に繰り返されますが、私たちの家に居場所がないかというと、そんなことはないように思えました。むしろ、焼け野原に建てられ、現在は世界有数のグローバルシティとなった東京のまん中に残るLITTLE HOUSEを、この場所に残し、多くの人に訪れてもらえる場所にしていけないかと思うようになりました。

「変化し続ける」ことを謳う東京で、私たちのLITTLE HOUSEは、焦土の暗闇からネオンの光まで、文字通り歴史の明暗を見守ってきました。その場所の記憶を媒介に、現在の東京と、かつてこの都市に生きた人々が目にした風景とをつないでいく場所として、この小さな家を残していきたいと思います。

Company

TOKYO LITTLE HOUSEは地図制作、編集、執筆、翻訳、そしてリサーチを行っている赤坂文化社によって運営されています。赤坂文化社では、都市の歴史、地理、文化の新しい捉え方を提案しています。

滞在の予約受付時から、ご希望される方にはこれらのスタッフが旅のプランニングのお手伝いをします。